臓器移植患者団体連絡会 活動報告

臓器移植患者団体連絡会の活動

一日も早く臓器移植法の早期改正を!
臓器移植に関連する患者団体で作る臓器移植患者団体連絡会(臓移連)では、2004年9月より臓器移植法の改正を目指し、国会議員への陳情を主に活動してきました。しかし法案は、前通常国会において2006年3月31日に提出されたのにも関わらず、一度も審議されず継続審議となりました。
臓移連では、今臨時国会で審議入りが出来ない場合は、この改正案が成立しないとの危機感を持ち、日本移植学会と協力し、国民に理解を得るための活動として2006年8月27日から福岡を皮切りに、大阪、名古屋、札幌と全国リレー市民シンポジウムを連続的に開催し、その集大成として10月1日には、東京でパレードとシンポジウムを開催しました。その結果漸く一般の方々のこの法律への関心も高まってまいりました。
しかし期待した臨時国会での審議は、与野党の駆け引きに終始し結果として2006年12月13日に厚生労働委員会において参考人質疑が行なわれたのみです。その後は、小委員会において2007年12月、2008年6月に2回参考人質疑が行われただけで、審議は進んでいません。
今通常国会においては、一日も早く改正案の審議に入りし、衆参両院において可決されることを強く望んでいます。
そこで臓移連として訴え来ました「なぜいま臓器移植法の改正が必要か」をご説明致します。

この法律の改正には、以下の要点があります。
1)いま臓器提供の意思が活かされているか?
2)生体移植に問題はないのか?
3)海外渡航移植の問題点
4)臓器移植を必要とする患者はどれ程いるのか?
5)我が国の臓器移植の成績は?
6)臓器移植医療に保険適用
7)日本と海外の臓器移植法の違いは?
8)提供したくない人への権利は守れるか?

1)いま臓器提供の意思が活かされているか?
2007年9月に行われた内閣府の世論調査によると脳死下での臓器提供について43.5%が提供しても良いと回答しています。(提供したくない24.5%)しかし意思表示カードの所持率は8.4%で臓器提供に同意し署名している人は、3.8%(提供拒否記入0.3%)に過ぎません。そして実際に脳死下での臓器提供に至る例は、少なくとも年間4000人から5000人と言われている脳死者の0.1%しかありません。
1億枚を10年間にわたり配布してきた結果がこの状態と言うことは、このシステムが機能していないことを表しています。現行法では、臓器提供を希望する人たちの意思が活かすことできません。

2)生体移植に問題はないのか?
我が国の腎移植は、40年にわたる歴史があります。この間免疫抑制剤の開発により成績も向上し、数も徐々に増加80年代に入りシクロスポリン(現ネオーラル)が開発され、死体腎移植の成績も向上し、89年に死体腎移植は、265例とピークに達しました。(死体腎の比率31.7%)
そして90年に「脳死臨調」が設けられ脳死移植への期待が高まりましたが、92年の答申後一向に進まず徐々に機運が低下していまいました。
95年に日本臓器移植ネットワークが設立されるましたが、提供数は低迷2000年代に入り新しい免疫抑制剤も出現し、より成績向上が見られ、生体腎が急激に増加しています。
2006年の腎移植は千例近くに達しましたが、反面死体腎比率は16.1%と80年代以降過去最低を割合で、2006年は、生体移植だけで千例を超えたと予想されています。
生体腎移植は、過去にドナーの死亡例もなく腎摘出術も進歩しドナーヘの影響も少なくなっていますが、いくら技術が進歩しても健康な人にメスを入れることの倫理的問題は、残ります。
我が国の死体肝臓移植は、法施行以前に2度行なわれましたが多くの障害にあい、継続することが出来ませんでした。1989年当時世界的にも数少なかった生体肝移植に島根医科大学が
踏み切り、残念ながらレシピエントは亡くなってしまいましたが一定の成果を上げ、次へ続くことになりました。その後京都大学と信州大学を中心に始められた生体肝移植は、脳死下からの提供がないため徐々に増加し、2004年に成人の生体移植にも健康保険適用されると年間500例を超えました。そして肝移植の99%が生体移植となっています。
生体肝移植は、腎移植に比べ傷も大きくドナーヘの影響が大きいです。そして2002年京都大学において初めてドナーが亡くなり、今年は群馬大学で手術後「ヘパリン(血液凝固阻止剤)」の過剰投与が原因で脊髄を損傷し、下半身不随になる事故が発生しています。
日本肝移植研究会の調査では、肝移植ドナーの約半数が術後に何らかの合併症をおこしており、生体腎移植同様に倫理的にも問題があります。
生体肺移植においては、ドナーは2人必要で、尚且つ一度切除された肺は、一生そのままの状態で増殖することはありません。
生体膵移植においても、切除された膵臓は、元に戻ることがありません。
生体移植は、倫理的問題だけでなく常にドナーが大きなリスクを負わなければなりません。やはり移植医療の本来あるべき姿は亡くなった方からの提供による移植で、生体移植は緊急避難的な移植として考えるべきです。

3)海外渡航移植の問題点
海外でも臓器は不足しています。渡航移植をする場合、多額の費用と家族を含め精神的肉体的負担は、計り知れません。
また最近の中国、東南アジアへの渡航移植が急増しています。これらの国では、提供者の問題と感染症など合併症の危険性が多いにあります。これらの行為は臓器売買につながるとWHOにおいても非難されていいます。
日本人の患者は、日本人が助けなければなりません。
*渡航移植者 肝臓移植者2983名中(83施設)221名(43施設)
       腎臓移植者8297名中(136施設)198名(63施設)

4)移植医療は、我が国おける必須の医療
いったい我が国では、どれだけの人が移植を必要とするのでしょうか。心臓移植の対象者はのうち300〜600人が、肝臓移植では1000人から2000人が一年間に死亡していると推定されています。またこれから移植を必要とする疾患では、糖尿病患が1370万人、B型、C型ウイルス感染者が600万人いると推定されています。
腎臓病では、血液透析者は、年間1万人ずつ増加し現在では26万人を超えています。血液透析には、一人当たり年間約5百万円、合計1兆3千億円が費やされています。腎臓移植の費用は、1年目は約5百万と血液透析とほぼ同じですが、翌年からは年間100万円から200万円と大幅に下がります。
心臓移植でもその費用は、人工心臓に比べ10分の1になります。

5)我が国の臓器移植の成績は?
我が国の移植成績は、心臓移植、肝臓移植、腎臓移植ともに欧米の平均と同じかそれを上回っています。また2000年以降、我が国の主要な施設では、生体腎臓移植の生着率が95%を上回っています。
5年生存率:心臓85.2%、肝臓80%、腎臓(生着率)生体77.3%、死体62.8%(19983〜1998)
そして次々と新しい免疫抑制剤(セルセプト・シムレクトなど)が普及し、成績を向上させています。

6)ほぼ全ての臓器移植医療に保険適用

死体 保険適用 保険適用
保険適用 保険適用 保険適用
生体 保険適用 保険適用 保険適用


2006年4月から死体からの心臓、肺、肝臓、膵臓の移植手術係る費用について保険適用が認められました。生体からの提供による肺移植も2008年4月に認められました。生体の膵臓移植は、対象から外れましたが、ほとんどの移植医療が保険適用となったことで、移植医療も一般医療として認められたことになります。
その他、死体からの心臓、肺、肝臓、膵臓の摘出術、臓器提供施設における脳死判定、判定後の医学管理など係る費用について脳死臓器提供管理料として保険適用が認められ、提供施設も恩恵を受けることになりました。
また臓器・検体搬送費、医師派遣旅費も療養費払い(一部自己負担あり)となり、患者の負担が大幅に削減されました。


7)日本と海外の臓器移植法の違いは?
日本の臓器移植法

遺族本人 承諾 拒否 不明
承諾 ×
拒否 × × ×
不明 × × ×


欧米諸国等の臓器移植法
遺族本人 承諾 拒否 不明
承諾 ×
拒否 × × ×
不明 × ×

欧米諸国等の臓器移植法
欧米諸国等では、本人の意思が不明の場合に、家族の承諾による臓器の摘出が可能とされています。
制度として遺族が拒否をしても本人が承諾していれば摘出が可能とされている国もありますが、実際には、遺族が拒否した場合は、臓器は摘出されません。

8)提供したくない人への権利は守れるか?
提供したい権利、提供したくない権利の双方を尊重するシステムを構築しなければなりません。それには意思表示の多様化が必要です。
改正案では、健康保険証(カード)と運転免許証の裏面に意思表示欄が設けられます。またインターネットによる登録制などいつでもその意思を表示変更出来るようなります。
改正案では、どうしても脳死を人の死として受け入れがたい人については、法的脳死判定に家族の承諾が必要となり、法的脳死判定を行なわないかぎり、死亡とみなされることはなく治療の続行と健康保険の適用が保証されています。

以上が、私たちが「なぜいま臓器移植法の改正が必要か」と訴える理由です。
現行法施行からもう既に11年以上が経過しました。この法律が制定される時、これでは移植ができなくなると涙を流して訴えました。しかしあの時は、まず臓器移植法の制定をとの流れに逆らえませんでした。その時以来、欧米諸国では救われたであろう1万人以上のいのちが失われてしまいました。その後も一日も早い臓器移植法の改正をと訴え続けてきました。いま漸く、改正の機会がやってきました。もしこの機会を逸すると、法改正は大きく遠のくものと思われます。
臓移連として各会が力を合わせ、移植学会の先生方とも協力し、国会議員への陳情活動を精一杯行います。皆さまにも地元の国会議員へ直接陳情するか手紙などで、働き掛けていただきますようお願いします。

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